大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)280号 判決 1979年5月30日

原告

岡本昭

被告

小畑証券株式会社

右代表者

松嶋孝夫

右訴訟代理人

田宮敏元

外二名

主文

一  原告の被告会社に対する、別紙株式目録(一)記載の株式が原告から訴外大島治郎一に譲渡されたことの確認を求める訴を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告会社は原告に対し、別紙株式目録(一)記載の株式(以下、「本件甲株式」という。)が原告から大島治郎一に譲渡されたことを確認する。

2  被告会社は大島治郎一に対する本件甲株式の名義書換手続をせよ。

3  被告会社は原告に対し、別紙株式目録(二)記載の株式(以下、「本件乙株式」という。)が原告に譲渡されたことを確認する。

4  被告会社は原告に対する本件乙株式の名義書換手続をせよ。

5  訴訟費用は被告会社の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四六年一一月頃、亡小畑市太郎から、同人の所有する本件甲、乙株式を譲り受け、その株券の引渡を受けた。

2  被告会社の定款には、株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨の定めがある。

3  原告は、昭和四七年三月四日、大阪証券代行株式会社を介し、さらに同四九年九月三〇日、日本証券代行株式会社を介し、いずれも被告会社に対し、本件乙株式の種類および数を記載した書面をもつて、同株式の原告に対する名義書換を請求することにより、原告が同株式を譲り受けたことを承認するよう請求した。

4  原告は、昭和五一年九月三〇日、被告会社に対し、本件甲株式の種類および数を記載した書面をもつて、同株式を原告が大島治郎一に譲渡することを承認するよう請求した。

5(一)  大阪地方裁判所は、昭和四七年二月七日、被告会社を債務者とする同庁昭和四六年(ヨ)第一〇〇二一号代表取締役兼取締役、監査役職務執行停止並びに代行者選任仮処分申請事件(以下、「別件仮処分事件」という。)につき、小倉武雄を被告会社の代表取締役職務代行者に選任する旨の決定をした。

(二)  原告は、昭和五一年一二月二七日、被告会社の代表者たる右小倉武雄に対し、本件甲、乙株式の種類および数を記載した書面をもつて、他に同株式の譲渡の相手方を指定するよう請求した。

6  それにもかかわらず、被告会社は、商法二〇四条ノ二第二項所定の期間内に、原告に対し、適法な譲渡の相手方指定通知をしなかつたので、同条三項により、原告の本件甲、乙株式譲渡承認請求については被告会社取締役会の承認があつたものとみなされる。

よつて、原告は、被告会社に対し、本件甲株式が原告から大島治郎一に譲渡されたことの確認と、同株式の同人への名義書換手続をすること、並びに、本件乙株式が原告に譲渡されたことの確認と、同株式の原告への名義書換手続をすることを、それぞれ求める。

二  被告会社の答弁

1  本案前の主張

原告は、本件甲株式に関する請求の趣旨第一、二項の請求について、訴の利益を有しない。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実は否認する。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3の事実は否認する。原告が大阪証券代行株式会社又は日本証券代行株式会社に対して、本件乙株式の名義書換手続請求の代行を依頼したのは、同株式の任意譲渡手続についての依頼をしたものにすぎず、商法第二〇四条ノ二第一項所定の譲渡承認請求の要式行為としての要件を欠いている。

(四) 同4、5の各事実は認める。但し、原告の被告会社代表取締役職務代行者小倉武雄に対する本件甲、乙株式の譲渡の相手方指定請求の書面が到達したのは昭和五一年一二月二八日である。また、商法二〇四条ノ二第一項所定の譲渡承認および譲渡の相手方指定請求をすることができるのは株式を譲渡しようとする株主で、かつ、株主名簿上の株主でなければならないのに、原告は、本件甲株式の前所有者からの譲受について被告会社取締役会の承認を得ておらず、また、その名義書換をも受けていない。したがつて、原告のした本件甲株式についての右譲渡承認請求および譲渡の相手方指定請求は、商法二〇四条ノ二第一項所定のものとはいえない。

3  抗弁

(一) 別件仮処分事件は、被告会社の代表取締役兼取締役小畑市太郎、取締役松嶋孝夫、同小畑ヨシ、同奥戸清、同井上美代子、監査役木村正三郎の各退任に伴う昭和四六年一一月二七日開催の被告会社株主総会における、小畑ヨシ、井上美代子、田辺利恭を各取締役に、渡辺正純を監査役に、各選任する旨の決議の無効確認請求事件を本案とするものであり、大阪地方裁判所は、右仮処分事件につき、昭和四七年二月九日、小畑ヨシ、田辺利恭の各取締役の職務の執行を停止するとともに、小倉武雄および木内正美の両名を代表取締役兼取締役職務代行者として選任する旨の仮処分決定をし、さらに、昭和四八年七月四日、木内正美の解任に伴い、安富敬作をその後任の代表取締役兼取締役職務代行者として選任する旨の仮処分決定をした。

(二) 昭和五二年一月一〇日、右職務代行者小倉武雄、同安富敬作および取締役井上美代子の三名は、被告会社の取締役会を開催し、本件甲、乙株式の譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の決議をし、被告会社の代表者たる小倉武雄は、翌一一日に原告のもとに到達した書面をもつてその旨を通知した。

(三) 仮に、右昭和五二年一月一〇日開催の取締役会決議が無効であるとしても、別件仮処分事件の本案事件において前記選任決議を無効とする判決が確定したことにより、その取締役としての地位を回復した松嶋孝夫、奥戸清、井上美代子の三名は、翌一一日に被告会社の取締役会を開催して、本件甲、乙株式の譲渡の相手方を先の決議と同じく高橋恵介と指定する旨の決議をし、取締役松嶋孝夫は、右取締役会の決議に基づき、同日、原告に対し、書面をもつてその旨を通知した。なお、取締役小畑ヨシは、招集通知を受けながら、右取締役会に欠席したものである。

(四) 右譲渡の相手方に指定された高橋恵介は、被告会社の最終貸借対照表である昭和五一年九月三〇日現在の貸借対照表における純資産額一億〇〇九一万八三一九円を基準とし、これを発行済株式の総数二〇〇万株で除した額に、本件株式数二〇万九四六〇株を乗じた額一〇五六万九三五二円を、大阪法務局に供託のうえ、昭和五二年一月一七日、原告に対し、右供託証明を添付した書面をもつて、本件株式を自己に売渡すよう請求した。

(五) なお、職務代行者小倉武雄が別件仮処分事件の本案事件の判決確定によつて、原告主張のとおり、その権限を失つたとすれば、同人に対して行われた原告の譲渡の相手方指定請求も効力を生ずるよしがないことになる。

三  抗弁に対する原告の答弁

1  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)の事実は認める。

(二) 抗弁(二)の事実のうち、昭和五二年一月一一日、被告会社代表取締役兼取締役職務代行者小倉武雄名義で、原告に対し、本件甲、乙株式の譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の通知があつたことを認める。

(三) 抗弁(三)の事実のうち、被告会社名義で、再度原告に対し、譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の通知があつたことは認めるが、その余を否認する。右通知が原告に到達したのは、昭和五二年一月一二日である。右指定をするにあたつて、被告会社の取締役会は開催されず、その決議を欠いている。

2  再抗弁

(一) 別件仮処分事件の本案事件(大阪地方裁判所昭和四六年(ワ)第五七九六号株主総会決議無効確認請求事件)の判決は、昭和五一年一二月二〇日、同控訴事件の控訴棄却の判決により確定したので、同日、職務代行者小倉武雄、同安富敬作はその権限を失つた。したがつて、小倉武雄が昭和五二年一月一〇日に原告に対し本件甲、乙株式の譲渡の相手方を高橋恵介と指定した通知は無効である。

(二) なお、原告が右小倉武雄に対して本件甲、乙株式の譲渡の相手方指定請求をした昭和五一年一二月二七日当時、原告は右本案事件の判決確定の事実を知らなかつたし、被告会社の商業登記簿上も右判決確定による小倉武雄の職務代行者退任の登記は未了であつた。したがつて、被告会社は、その当時小倉武雄が原告の譲渡の相手方指定請求の通知を受領する権限を有しなかつたことを原告に対抗し得ない。

四  再抗弁に対する被告会社の答弁

1  再抗弁に対する認否

(一) 再抗弁(一)の別件仮処分事件の本案事件が原告主張の日時に確定したことは認める。

(二) 同(二)の事実のうち、原告が本案事件の判決確定の事実を知らなかつたとの点は否認する。

2  再々抗弁

任期の満了又は辞任によつて退任した取締役又は代表取締役は、後任者が就職するまでは、商法二五八条一項、二六一条三項により、なお取締役又は代表取締役としての権利義務を有する。仮処分によつて選任された代表取締役又は取締役の職務代行者といえども同じである。本件において、職務代行者小倉武雄、同安富敬作と別件仮処分事件の本案事件の判決確定によりその地位を回復した取締役松嶋孝夫、同奥戸清、同小畑ヨシとの取締役の職務の引継ぎがされたのは昭和五二年一月一八日ころのことであり、代表取締役であつた小畑市太郎は当時既に死亡していたため、昭和五二年一月一八日開催の取締役会決議により代表取締役に選任された松嶋孝夫が代表取締役の職務を引継いだのは同月二〇日のことである。したがつて、小倉武雄が昭和五二年一月一一日にした本件甲、乙株式の譲渡の相手方指定通知は有効である。

第三  証拠<略>

理由

第一本件甲株式に関する請求についての判断

一原告の、本件甲株式が原告から大島治郎一に譲渡されたことの確認を求める訴は、これを、単なる過去の事実関係の確認ではなく、現に右株式を大島治郎一が所有していることの確認を求める訴であると解しても、その確認をすることによつて、被告会社に対する関係で、原告の法律上の地位の安定がえられることを窺わせるに足りる事情は本件において認められないから、その確認の利益がなく、却下を免れない。

二原告の本件甲株式の大島治郎一への名義書換手続請求は、これを要するに、被告会社取締役会が原告から大島治郎一への右株式譲渡を承認したものとみなされることを理由として、その株主名簿の名義書換を求めるというのであつて、このような請求は、株式の譲受人のみが請求できるものであるといわなければならないところ、譲渡人である原告がそれを被告会社に求めることのできる根拠については何らの主張がない。したがつて、この点に関する原告の請求は、主張自体失当として棄却を免れない。

第二本件乙株式に関する請求についての判断

一原告の、本件乙株式が原告に譲渡されたことの確認を求める訴は、現に右株式を原告が所有していることの確認を求める現在の法律関係の確認の訴として適法であると考えられる。

二<証拠>を総合すると、原告は、昭和四六年一一月ころ亡小畑市太郎から本件乙株式を譲り受け、その占有する株券の引渡を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右事実によれば、右株券を占有していた小畑市太郎は本件乙株式の所有者であつたと推定される。

三被告会社の定款上、被告会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要するとの定めがあることは、当事者間に争いがない。

ところで、被告会社のように、商法二〇四条一項但書により、定款上株式の譲渡制限がなされている会社の株式の譲渡について、同法二〇四条ノ二所定の譲渡承認および譲渡の相手方指定請求をすることができる者は、株式を譲り渡そうとする株主であつて、かつ、株主名簿上の株主に限られるものとはいえず、譲受人が自己の名において右の請求をすることもまた妨げられないと解するのが相当である。けだし、同法二〇四条一項但書が本来自由であるべき株式譲渡の制限を会社に許しているのは、もつぱら会社にとつて好ましくない者が株主となることを防止することができるようにするところにあるのであつて、そのためには、譲受人が自己の名において右承認を請求することができるとしても、会社がその譲受人に株主資格を認めることを希望しないときには、同法二〇四条ノ二第二項の規定に基づいて譲渡の相手方を指定すれば足り、それ以上に、同法二〇四条ノ二ないし四の規定にしたがつて投下資本の回収をはかる道を譲渡人あるいは株主名簿上の株主に限定し、譲受人をその道から排除しなければならないとする理由を見出し難いからである。同法二〇四条ノ二の規定の文言上も、同条は、当事者間の合意による株式譲渡においては、譲渡人は、譲渡人のために会社に対し譲渡承認請求をなすべき義務があることから、株式の譲渡前に譲渡承認請求をするのが常であるという通常の場合を例示したものにすぎず、譲受人からの譲渡(受)承認請求を排斥する趣旨ではないと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、原告は、本件乙株式の譲受人として、被告会社に対し、同法二〇四条ノ二の規定に基づいて譲渡承認およびそれが容れられない場合の譲渡の相手方指定請求をすることができるものといわなければならない。

四<証拠>によれば、原告が、昭和四七年三月四日、大阪証券代行株式会社を介し、被告会社に対し、本件乙株式の種類および数、並びに、松嶋孝夫名義の同株式を小畑市太郎より譲り受けたのでその承認および原告への名義書換を請求する旨を記載した書面をもつて、右譲渡承認および名義書換請求をしたこと、被告会社が右請求を拒絶したので、原告が、再度、昭和四九年九月三〇日、日本証券代行株式会社を介して被告会社に対する同様の請求をしたこと、が認められ、右認定に反する被告会社代表者本人尋問の結果の一部は、原告本人尋問の結果に照らして直ちには措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

また、原告主張の別件仮処分事件が、被告会社の代表取締役兼取締役小畑市太郎、取締役松嶋孝夫、同小畑ヨシ、同奥戸清、同井上美代子、監査役木村正三郎の各退任に伴う、昭和四六年一一月二七日開催の被告会社株主総会における、小畑ヨシ、井上美代子、田辺利恭を各取締役に、渡辺正純を監査役に、各選任する旨の決議の無効確認請求事件(大阪地方裁判所昭和四六年(ワ)第五七九六号)を本案とするものであること、大阪地方裁判所が、右仮処分事件につき、昭和四七年二月九日、小畑ヨシ、田辺利恭の各取締役の職務の執行を停止するとともに、小倉武雄および木内正美両名を代表取締役兼取締役職務代行者として選任する旨の仮処分決定をし、さらに、昭和四八年七月四日、木内正美の解任に伴い、安富敬作をその後任の代表取締役兼取締役職務代行者として選任する旨の仮処分決定をしたこと、右別件仮処分事件の本案事件の判決が、昭和五一年一二月二〇日、同控訴事件の控訴棄却の判決により確定したこと、原告が、昭和五一年一二月二七日、被告会社の代表者としての右小倉武雄に対し、本件甲、乙株式の種類および数を記載した書面によつて、他に同株式の譲渡の相手方を指定するように請求したこと、はいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、右譲渡の相手方指定請求の書面が小倉武雄に到達したのは昭和五一年一二月二八日であると認められ、右認定に反する証拠はない。さらに<証拠>によれば、被告会社の商業登記簿に別件仮処分事件の本案事件の判決が確定した旨の記載がされたのは昭和五二年一月一七日のことであり、原告が小倉武雄に対し本件甲、乙株式の譲渡の相手方指定請求の書面を発送した昭和五一年一二月二七日当時、原告は右本案事件の判決確定の事実を知らなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は、本件乙株式を小畑市太郎から譲り受けたことについて、被告会社に対し、商法二〇四条ノ二第一項の規定に基づくその承認の請求およびそれが容れられない場合の譲渡の相手方指定請求をしたことが明らかであるといわなければならない。

なるほど、原告が本件甲、乙株式についてその譲渡の相手方の指定請求をした昭和五一年一二月二七日当時、別件仮処分の効力はその本案事件の判決確定により当然に消滅し、したがつて、被告会社代表取締役職務代行者小倉武雄はその権限を失つていたものといわなければならないが、前記認定のとおり、原告はその事実を知らず、被告会社の商業登記簿上においても右事実の登記は未了であつたから、被告会社は、小倉武雄が職務代行者の権限を失つていたことを原告に対抗することはできない。

五そこで、被告会社の主張する本件甲、乙株式の譲渡の相手方指定通知の効力について判断する。

<証拠>によれば、昭和五二年一月一〇日、小倉武雄、安富敬作の両名は、被告会社代表取締役兼取締役職務代行者として、また、井上美代子は取締役として、被告会社の取締役会を開催し、本件甲、乙株式の譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の決議をしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、小倉武雄が、同日、職務代行者として、翌一一日に原告のもとに到達した書面をもつてその旨を通知したことは当事者間に争いがない。

しかしながら、右取締役会決議がされ、原告に対する通知がされた昭和五二年一月一〇日あるいは一一日当時、別件仮処分の効力がその本案事件の判決確定により当然に消滅していたことは先に認定したとおりであつて、小倉武雄、安富敬作の代表取締役兼取締役職務代行者としての権限は既に消滅していたものといわなければならないから、右取締役会決議は無効であり、小倉武雄のした原告に対する通知はその代表権消滅後になされたことになる。

被告会社は、仮処分によつて選任された代表取締役又は取締役の職務代行者についても商法二五八条一項、二六一条三項の適用があるとの前提に立つて、小倉武雄、安富敬作が、昭和五二年一月一八日ころまで取締役職務代行者としての権利、義務を有し、同月二〇日まで代表取締役職務代行者としての権利、義務を有していたものであると主張するが、右条項は、仮処分によつて選任された職務代行者が、仮処分の効力の消滅に伴つて権限を失う場合にはその適用をみないものと解するのが相当である。

次に、<証拠>によれば、別件仮処分事件の本案事件について、昭和四六年一一月二七日開催の被告会社株主総会における前記役員選任決議を無効とする判決が確定したことにより、その取締役としての地位を回復した松嶋孝夫、奥戸清、井上美代子の三名は、前記職務代行者小倉武雄らが取締役会を開催して譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の決議をした昭和五二年一月一〇日の翌日である一一日に、再び被告会社の取締役会を開催して、先の決議と同じく本件甲、乙株式の譲渡の相手方を高橋恵介と指定する旨の決議をしたこと、当時、既に小畑市太郎は死亡しており、また、松嶋孝夫らと同じく取締役の地位を回復した小畑ヨシは、右取締役会の招集通知を受けながら欠席したこと、小畑市太郎の死亡により代表取締役が欠員であつたため、取締役松嶋孝夫は、出席取締役全員の意思に基づき、同日、原告に対し、被告会社名で右決議の内容を記載した書面を発送し、右書面は翌一二日原告のもとに到達したこと、がそれぞれ認められる。<証拠判断略>。

右認定事実によれば、昭和五二年一月一一日に開催された取締役会決議は適法、有効なものであることが明らかであり、また、代表取締役が欠員であつたため、右取締役会に出席した取締役全員の意思に基づいて、原告に対し被告会社名で右決議の内容を通知した取締役松嶋孝夫の執行行為は、被告会社を代表する権限に基づいたものであると考えられる。ただ、先に認定したとおり、原告の被告会社に対する譲渡の相手方指定請求の意思表示が被告会社に到達したのは昭和五一年一二月二八日のことであるから、被告会社は、商法二〇四条ノ二第二項所定の期間の末日である昭和五二年一月一一日(同日が国民の祝日、日曜日その他の休日に当らないことは明らかである。)までに原告のもとに到達する書面をもつて譲渡の相手方の指定通知をしなければならないのに、右書面が到達したのは翌一二日であつたというのであつて、右書面による通知は、同項所定の譲渡の相手方指定通知としての効力を有しないものといわなければならないが、なお、前記小倉武雄が昭和五二年一月一一日に原告のもとに到達した書面をもつてした譲渡の相手方指定通知を被告会社代表者として追認する効力を有すると認められる。

したがつて、先に認定、判断したとおり、小倉武雄のした右譲渡の相手方指定通知は、被告会社の有効な取締役会決議に基づかず、かつ、同人の代表権消滅後に行われたものであるが、その瑕疵は、前者については昭和五二年一月一一日に開催された取締役会における同旨の決議によつて追完され、後者についても取締役松嶋孝夫のした譲渡の相手方指定通知によつて追認され、その結果遡及して有効なものになつたものと認めるのが相当である。

六次に<証拠>によれば、譲渡の相手方に指定された高橋恵介は、商法二〇四条ノ三第二項所定の金額として一〇五六万九三五二円を大阪法務局に供託したうえ、昭和五二年一月一七日、原告に対し、右供託証明書を添付した書面をもつて、本件甲、乙株式を自己に売り渡すよう請求したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、高橋恵介が大阪法務局に供託した右一〇五六万九三五二円が同項に定める供託すべき金額といえるか否かについて判断する。同項に定める「最終ノ貸借対照表ニ依リ会社ニ現存スル純資産額」とは、会社の最終の貸借対照表上の資産の部に計上された合計額(積極財産)から負債の部に計上された合計額(消極財産)を差し引いた残額とみるべきものであるが、右負債の部にいわゆる「利益性引当金」が計上されているときには、右引当金は、積極財産から控除すべき消極財産には含まれないものと解するのが相当である。これを本件についてみるのに、<証拠>によれば、被告会社の最終貸借対照表上の資産の部に計上された合計額は、一六億九五五九万七六八七円、負債の部に計上された合計額は、一五億九四六七万九三六八円であるが、右負債の部には、引当金として、証券取引責任準備金七四二万三八四〇円および売買損失準備金一七〇万二七九七円がそれぞれ計上されていることが認められるところ、これらの準備金は、いずれもその繰入額を税法上損金算入することが認められているものではあるが(租税特別措置法五七条、五六条の一一参照)、発生の確実性に欠ける損失に備えるためのものであつて、会計原則上その実質は利益留保の性質を有する利益性引当金にあたると解せられる。これら利益性引当金を消極財産の一部に含めて、資産の部に計上された合計額から差し引くのは、譲渡制限のある株式を所有する株主の投下資本の回収を保護しようとする商法二〇四条ノ三の法意に照らして正当とはいえない。

したがつて、高橋恵介が同条第二項に基づいて供託すべき金額は、右貸借対照表上の負債の部合計金額一五億九四六七万九三六八円から右各準備金の合計額九一二万六六三七円を控除した一五億八五五五万二七三一円を、資産の部合計金額一六億九五五九万七六八七円から差し引いた額(純資産額)一億一〇〇四万四九五六円を基準とし、これを前掲甲第三号証によつて認められる被告会社の発行済株式総数二〇〇万株で除したものに、本件甲、乙株式数二〇万九四六〇株を乗じた一一五二万五〇〇八円(円位未満四捨五入)であることが計算上明らかであり、高橋恵介が供託した一〇五六万九三五二円は、右法定の供託額に九五万五六五六円不足することになるといわなければならない。

しかしながら、同法二〇四条の三第二項の規定が売渡請求者に同項所定の金額の供託を要求するのは、株式代金債務の履行を確保するためであることに照らせば、法定の供託額に対する不足額の割合が僅少であるときには、不誠実な売渡請求者が、ことさらに不足額を供託する等の特段の事情がない限り、なおその供託をもつて有効と解するのが相当である。

本件において、高橋恵介のした供託は、法定の供託額に対する不足額の割合が8.3パーセント弱であるのみならず、弁論の全趣旨によれば、右不足を生じたのは前記各準備金の実質を理解できなかつたことによるものであることが認められるから、なお、同項所定の供託として有効なものであると認めることができ、したがつて、高橋恵介は、原告に対し、同条第一項所定の売渡請求をしたことになる。(なお、株式の移転の効力は前記不足額が支払われたとき生ずることはいうまでもない)。

七以上によれば、本件乙株式を原告が譲り受けたことについて被告会社取締役会の承認があつたものとみなされることになるとの原告主張は理由がなく、したがつて、原告は、本件乙株式を小畑市太郎から譲り受けて所有していることを被告会社に対して主張することができないことが明らかであつて、同株式についての原告の請求もすべて棄却を免れない。

第三結論

よつて、原告の被告会社に対する、本件甲株式が原告から大島治郎一に譲渡されたことの確認を求める訴を却下し、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(首藤武兵 東條敬 四宮章夫)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例